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広島地方裁判所福山支部 昭和35年(む)1号 判決

被告人 藤原勇

決  定

(申立人氏名略)

右の者から刑事訴訟法第五百二条に基く異議の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件申立を棄却する。

理由

(異議申立の要旨)(略)

(当裁判所の判断)

一、申立人に対する確定判決謄本及び該裁判の執行指揮書謄本並びに取寄にかかる一件記録によれば、申立人は昭和二十二年二月十五日大阪地方裁判所において強盗同未遂罪により懲役十年に((一)の刑という)、昭和二十三年三月二十六日大阪地方裁判所岸和田支部において強盗窃盗罪により懲役十年に((二)の刑という)、昭和二十四年十月四日大阪地方裁判所において強盗傷人罪により懲役五年に((三)の刑という)、昭和二十五年九月十八日岡山地方裁判所玉島支部において窃盗罪により懲役一年(減刑令により懲役九月に減軽)に((四)の刑という)、昭和二十六年二月二十日鳥取地方裁判所倉吉支部において窃盗詐欺逃走罪により懲役三年(減刑令により懲役二年三月に減軽)に((五)の刑という)、同年十二月十三日広島地方裁判所福山支部において判示第一の(一)乃至(三)第二の(一)(二)の窃盗私文書偽造同行使詐欺罪につき懲役一年(減刑令により懲役九月に減軽)に((六)の刑という)、判示第一の(四)乃至(一〇)第二の(三)乃至(五)第三の有価証券偽造同行使詐欺につき懲役十年(減刑令により懲役七年六月に減軽)に((七)の刑という)夫々処せられたこと、しかして(四)の刑については控訴棄却の確定により昭和二十六年三月十一日及び(二)の刑については控訴取下により同年十月四日、(五)の刑については控訴取下により同年十月九日、(三)の刑については控訴取下により同年十月二十三日、(六)及び(七)の刑については控訴申立期間の経過により同年十二月二十八日いずれも確定をみるに至つたこと、右(一)乃至(七)の刑は併合罪の数個の裁判の執行をなすべき場合として、広島地方検察庁福山支部検察官西向井忠美により昭和二十六年十月二十九日(一)の刑につき同日を刑始期とする執行刑十年、(二)の刑につき執行刑七年六月、(五)の刑につき執行刑二年、(四)の刑につき執行刑六月の刑執行指揮が、又昭和二十七年一月十四日同庁検察官前原一一より(三)(六)及び(七)の刑についていずれも刑法第五十一条第十四条の適用を理由に執行不能なる旨の執行指揮が夫々なされたこと、しかるに昭和三十四年十二月二十一日広島地方検察庁検察官石角一夫より、前記(七)の刑は(一)乃至(六)の刑と併合罪の関係にないことを理由に(七)の刑に対する従前の執行指揮を取消し、(一)(二)(五)及び(四)の執行刑通算二十年の執行終了後引続き(七)の執行刑七年六月を執行すべき旨の変更指揮がなされたこと明らかである。

二、よつて、(七)の刑につきなされた検察官の刑変更指揮の当否につき検討する。

(一)  申立人に対する確定判決謄本並びに取寄せにかかる一件記録によれば、前記(一)の刑の犯行は昭和二十一年十月二十一日から同年十一月十日迄の間、(二)の刑の犯行は昭和二十二年十月八日から昭和二十三年二月十三日迄の間、(三)の刑の犯行は同年十一月十六日から同月二十九日迄の間、(四)の刑の犯行は昭和二十五年七月十六日から同年八月六日迄の間、(五)の刑の犯行は同年二月二十七日から同年十一月二十四日迄の間、(六)の刑の犯行は同年二月二十四日から同年十一月一日迄の間、(七)の刑の犯行は昭和二十六年六月八日から同年八月二十二日迄の間に夫々なされた所為であることが認められる。

しかるところ、既にみたように、前記(一)乃至(七)の刑のうち(四)の刑は昭和二十六年三月十一日附で確定しているのであるから、右(一)、(二)、(三)、(五)及び(六)の刑の各所為はいずれも前記(四)の刑の確定した裁判前の犯行であるも、(七)の刑の所為は(四)の刑の確定した裁判後の犯行であること明らかであり、そうすると、右(四)の刑の所為と(一)(二)(三)(五)及び(六)の各所為との間には刑法第四十五条後段の併合罪の関係に該るも、(七)の刑の所為は(四)の刑の所為とは勿論のこと更に(一)(二)(三)(五)及び(六)の刑の各所為との間においても、同条後段の併合罪の関係に該当しないものといわねばならない。蓋しひとたび確定裁判があつたときは、それによつて併合罪関係は遮断され、その確定後に犯された罪はもはやそれ以前の罪との間には併合罪の関係にたたないからである。

この点につき、取寄にかかる一件記録中(七)の刑に対する判決原本によると、(七)の刑の所為につき、(四)の刑の確定後に引続き確定した(一)及び(二)の刑の確定裁判前の余罪なる旨判示し、(七)の刑の所為と(一)及び(二)の刑の各所為との間に刑法第四十五条後段の併合罪関係を肯定するやに窺われるが、右(一)及び(二)の刑の所為は前記(四)の刑の確定裁判前の所為にかかり、ために(四)の刑の所為との間には同法第四十五条後段の併合罪の関係にあること既に説示した通りであるから、右(四)の刑の確定裁判により、それ以前になされた(一)(二)(三)(五)及び(六)の刑の各所為と右確定裁判後になされた(七)の所為とでは併合罪の関係を遮断され、両者間には如何なる意味においても併合罪の関係は存在しないものというべきである。

そこで、これらの各刑の執行においては、右(一)乃至(六)の各刑の間には数個の自由刑が併合罪の数個の裁判として執行される場合(刑法第五十一条)に該当すること論をまたないが、他方(七)の刑については、右(一)乃至(六)の各刑のいずれともそのような関係にないため独立して執行さるべきものといわねばならない。されば検察官において、(一)乃至(七)の刑を併合罪の関係にある場合として執行指揮したことの過誤を是正し、(七)の刑につき併合罪の関係なきものとして独立に執行すべき旨変更指揮したことには、何ら違法な点はない。

(二)  しかるところ申立人は、検察官のなした前記刑変更指揮の所為は不当なる旨主張し、その理由として、服役後八年余を経過した今日において、従前の執行指揮が誤りであるとして軽々に変更することは、申立人にとり爾後十一年余の刑を服役するのみで比較的早期に出所しうるという期待を侵害するのみでなく、出所後の更生計画にも齟齬をきたすに至ると主張するが、前段説示の通り、(七)の刑の所為は(四)の刑の確定判決後の犯行に属し、それが故に(四)の刑の確定判決前の犯行にかかる(一)乃至(六)の刑の各所為と執行の過程において同一の処遇(刑法第五十一条)をうけ得ないものであるから、検察官において(七)の刑に対する従前の執行指揮の過誤を是正することは裁判の適正な執行を確保するという公益的要請に合致し、従つて亦妥当な処置というべきではあつても、決して不当なものということはできない。もつとも申立人の主張するような早期出所の期待の侵害並びに更生計画の齟齬の惹起が七年余の日時を経過した後に措られた検察官の変更指揮に基因するものであるとすれば、検察官の右変更指揮の処置が遅きに失したという意味において遺憾のうらみなしとしないが、それだけの理由を以て検察官のなした刑変更指揮が不当なものということはできず、他に検察官のなした執行指揮に関し処分の不当性を首肯すべき事由も存しない。

三、そうすると、申立人の本件異議申立は理由がないことに帰するから、これを棄却すべきものとし、よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 丸山明)

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